職場体験と家族、2人の“おばあちゃん”との関わりを通して、仕事では理学療法士、プライベートではヨガインストラクターという道を選んだ家泉さん。両方の立場の知識や経験を生かし、ケアが必要な人だけでなく、「ケアをする側の人のケア」にも力を入れ、元気な人が元気でいられるための予防活動も行っています。「人が幸せになるきっかけとなる」ことを日々意識しているという彼女。暖かな笑顔の中に、健康への強い願いが見えてきます。
家泉美希(いえいずみ みき)
群馬県出身/理学療法士、ヨガインストラクター
きっかけは、職場体験のおばあちゃんの涙。
どんな仕事をしていますか?
病院やデイサービスで理学療法士としてリハビリテーション業務を行っています。
病院は常勤での勤務で、終業後と休日を使って理学療法士兼ヨガインストラクターとして院外活動をしています。
理学療法士とは?
理学療法士とは、怪我や病気で痛みが出たり、動きにくくなってしまった人がよりよく動けるようになるためのサポートをする人です。ただ動く練習をするのではなく、なぜ問題が生じているのか、筋力や関節の動きの測定や分析などを通して原因を見つけ、その原因を解消するためのリハビリメニューを作ります。実際に体に触れ筋肉や関節の動きを改善したり、必要に応じて運動をしてもらったりもします。また、身体機能だけでなく、日常生活に困らないよう環境設定のアドバイスなども行っています。
この仕事を選んだきっかけは?
中学生のときの職場体験で、介護老人保健施設に行ったことがきっかけです。
1人寂しそうに座っている女性に声をかけたところ「足が痛くて歩けなくなり悲しい」と話してくれました。私は深い意味もなく、ただ励まそうとして「私が大人になったら、おばあちゃんの足を治す人になって治してあげる!」と言ったのですが、彼女は涙を流しながら何度もありがとうと言って手を握ってくれたのです。
言葉だけでこんなに喜んでくれるなら、実際に自分の手で力になれたらどんなに素敵なことだろう…と思い、そんな仕事に魅力を感じてこの道を選びました。
仕事でやりがいを感じるのはどんなときですか?
関わった患者さまや利用者さまに嬉しい変化が訪れたときや笑顔が見られたときです。機能が回復するという身体の変化もですが、心の変化もそれと同じくらい嬉しいです。「嬉しい」「楽しい」「幸せだな」の反応や、笑顔が見られると心が暖かくなります。
また、「ありがとう」をいただけたときにもやりがいを感じます。仕事として当たり前のことをしているのに、「ありがとう」の言葉をいただけることが多くあります。自分が行ったことに対してのリアクションがダイレクトに返ってくるので、毎日やりがいがあります。
「誰かのケアをしている人」をケアする。
今仕事以外で力を注いでいることはありますか?
医療や福祉に関わる仕事をしている人や家族の介護をしている人など、“誰かのケアをしている人”のケアをするためのヨガ、「ケアヨガ」です。
ケアをする人が
元気で明るく幸せなら
ケアをされる人も
元気で明るく幸せに
なれるはず…
という想いでやっております。
始めたきっかけは大好きな祖母が脳梗塞を起こし、いわゆる“寝たきり”と呼ばれる状態になったことです。
明るく活動的だった祖母が、食べることも、話すことも、笑うこともなくなり、人を治すために理学療法士になったのに何の力にもなれない、と不甲斐なさを感じる日々でした。時間がきたら栄養を、問題があれば酸素や点滴を送られる…そんな状態になった祖母が輝くために自分ができることは何か、祖母の生きる意味とは何かを考えていました。
答えは見つからないままでしたが、今自分のできることは悪くなった人にアプローチするのではなく、悪くなる前の人に予防の大切さを伝えることだと思い、そのツールの1つとしてヨガインストラクターの資格を取得しました。
答えではないと思って取得したヨガの学びを通し、私は祖母が輝きを失ったと決めつけていただけで、どんな状態でも命の輝きは変わらないんだと考えるようになりました。
病気を治すことはできなくても、祖母が与えてくれたもの、築いてくれたもの、繋いでくれたものに感謝をして、その気持ちで接することはできる。暖かい手と暖かい心で触れることで十分なんだと思いました。
私1人が医療や介護が必要な人全員を治すことはできなくても、その人を看ている多くの人たちの心身のケアをすることはできる、彼らが健康で健全な心身をつくるきっかけにはなれるのではないだろうか。
今はそれが自分の使命だと思っています。
自分ならではのつながりを生かしたケアを。
将来の夢があれば教えてください。
今よりも資格(理学療法士、全米ヨガアライアンスRYT200)を活かしていきたいと同時に、枠にとらわれない働き方をしていきたいです。
理学療法士だから病院で、ヨガインストラクターだからスタジオで、ではなく、たくさんの人とのつながりをいただいている私だからできることを。
例えば、理学療法士として培った知識や経験を手軽に学べる場をヨガインストラクターとして提供したり、美容院や飲食店など他業種とコラボをし、そこに来る人のニーズに合わせた運動メニューを提供することなど。これまでも実際に他業種との活動実績があります。
また、自分の能力を活かしたいと考えている人に、活動の場を提供したいとも思っています。同じ資格を持つ人たちに、自分たちの資格の可能性の大きさに気付いてもらったり、私自身が彼らの働き方・生き方の指標になれるような活動をしていきたいですね。
それから、「悪くなったら病院へ行って治す」というサイクルを断ち切りたいと思っています。そのために地域での予防活動を行っています。一般向けに体に関する知識を学ぶ講習会を開いたり、年齢層や悩み別(産前産後の女性や中年期以降の方たち向けなど)のヨガ教室・体操教室を開いて自分の心身の状態を知ってもらったり、実際に運動をしてもらうなど、健康への意識づくりを進めています。
そして、5年後を目標にケアヨガを全国に広めたいと思っています。
職能団体の会長や、介護・福祉・医療関係の施設を経営されている方などたくさんの方とのご縁から、少しずつ群馬県内だけでなく県外でもケアヨガの開催が決まってきています。まずは声が届くところからケアヨガの活動を認知してもらい、体験してもらう。そこからさらにつながった人たちにアプローチして活動の場を広げていきたいです。
※職能団体:法律や医療などの専門的資格を持つ専門職従事者らが、自己の専門性の維持・向上や、専門職としての待遇や利益を保持・改善するための組織 (参照:Wikipedia)
1つ歳をとるごとに、前よりいいなと思えるように。
人間関係において気をつけていることはありますか?
自分のフィルターをかけずありのままを受け入れるよう意識しています。
人を傷つけず、かつ誠実な言葉で話すよう心がけています。
学生時代と今で変わったこと、変わらないことは何ですか?
良くも悪くも、周りに流されないところは変わっていません。
幸せだと感じるのはどんなとき?
誰かが喜ぶかな…と考えて企画したり、行動しているときが幸せです。イベントなどの企画だけではなく、プレゼントを選んだりする時間がとても好きです。
もう1つ、人のきっかけになれたときも幸せだなぁと感じます。心身の悩みを改善するきっかけ、人と人をつなぐきっかけ、一歩踏み出すきっかけ…少しでも役に立てたのかなと思うと嬉しくなります。
生きる上での信念やモットーはありますか?
利他愛を常に胸に。
ただ利他に依存し利他に満たされるのではなく、自分もしっかりと大切にするよう意識しています。
「他人の救済や幸せのために尽くす」だけでなく自らの努力により得たものを他人にも還元する、他人のために動くことで自らも成長し何かを得るというイメージです。他人に尽くしたければ、自分も幸せで満たされていることが大切だと思っています。
理想の生き方や人生は?
1つ歳をとるごとに、前の歳よりも良い歳になったな、楽しかったな、幸せだったな、を更新していく人生にしたいと思っています。そのために毎日を暖かい心で、人を想い、丁寧に生きていきたいです。
趣味 | 学ぶこと、ゴルフ、旅行 |
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特技 | 人とつながる、人と人をつなぐ |
資格 | 理学療法士、全米ヨガアライアンスRYT200 |
好きな映画 | ケアニン |
好きな言葉 | 知足(足るを知る) |
好きな休日の過ごし方 | そのとき一番会いたい人に会いに行く |
リフレッシュ方やストレス解消法 | 知らない土地に行く |
毎日必ずやっている事 | 誰かのきっかけになること 患者さまの身体が良くなるきっかけ 自身のつながりから、さらに人と人をつなぐきっかけ 接し方や言葉選びで関わった人が笑顔になるきっかけ など、誰かが幸せになるためのきっかけを作るよう意識しています |
時間とお金が膨大にあったらしたいこと | 国内外問わず、心が踊る土地にどんどん踏み入れたい! |
子供のころの夢 | 保育士 |
尊敬する人 | 両親 |
座右の銘 | ただ善くあれ、善くせよ |
人生で大切にしたいもの | 利他愛、ご縁、つながり |
理想の30代とは | 日々変化を受け入れ進化を続ける、年齢を重ねるごとに輝きを増す30代! |
家泉美希
1988年11月22日生まれ。A型。
中学生のときの職場体験をきっかけに理学療法士を目指す。
2011年理学療法士国家試験合格。病院で働く中、悪くなる人を治すために待っているのではなく、予防の大切さを伝えたいという思いが生まれる。
2017年全米ヨガアライアンス認定ヨガインストラクターの資格を取得。
寝たきりとなった自身の祖母との関わりの中でケアをされる人も、ケアをする人も幸せになる方法がないかと考え、医療・福祉に関わる職業や家族の介護などでケアをしている人のケアをするケアヨガを始める。